【蕪村菴俳諧帖19】江戸の省エネ冷暖房

◆湯たんぽ復活

夏だけでなく冬も節電が必要というので、 この冬は湯たんぽがよく売れたそうです。

忘れられかけていた伝統の暖房具が注目されたわけですが、 この湯たんぽ、全部漢字で書くと「湯湯婆」となります。
昔は「湯婆」と書いて「たんぽ」と読んでいました。
「たん」が「湯」をあらわすのがいつのまにか忘れられ、 わざわざ「湯」の字をつけ足したもののようです。

○夢よりは先へさめたる 湯婆哉(也有)

夢から醒めるより先に湯たんぽが冷めている。
惜しいことに長持ちしないのが、昔の湯たんぽの弱点でした。

○起さるゝ声も嬉しき 湯婆哉(支考)

湯たんぽは病人の身体をあたためるのにも使われました。
各務支考(かがみしこう)の句は 病に臥した芭蕉を看病していたときのもの。
敬愛する師を親しくお世話することができ、 湯を替えてくれと起こされるのもうれしいというのです。

支考と同じ蕉門の岩田涼菟(りょうと)には こんなユーモラスな句があります。

○湯婆から駒の出さうな 手つき哉(涼菟)

ことわざ「瓢箪(ひょうたん)から駒」を踏まえた一句。
湯たんぽから冷めた水を捨てる手つきが 瓢箪の水を流すのに似て見えたのでしょう。

瓢箪は酒の容器にも使ったので、 あるいは酒を注ぐ様子に見えたのかも。
支考も同じような手つきで湯を替えていたのかもしれませんね。



◆冬が婆なら夏は何?

こういう笑い話があります。
中国の皇帝が、ある高僧が秘かに妻帯しているという噂を耳にします。
さっそく御前に呼んで問い質したところ、 高僧はけろりとして答えました。

妻は二人おります。
冬は湯婆、夏は竹夫人(ちくふじん)でございます。

竹夫人は抱き籠(かご)の別名です。
竹(もしくは籐)で編んだ抱き枕のようなもので、 長さは五尺(約1.5メートル)ほど、 直径は一尺(約30センチメートル)くらいの円筒状をしています。

中は空洞ですから風が通り、竹のひんやりした肌ざわりもあって 寝苦しい夏にはこれを抱いて寝ると快適だったそうです。

○天にあらば比翼の籠や 竹夫人(蕪村)

天にあらば比翼(ひよく)の鳥、 地にあらば連理(れんり)の枝、という 男女の仲睦まじさをあらわす言葉があります。

玄宗皇帝と楊貴妃の恋を扱った長詩『長恨歌』の一節で、 『源氏物語』に引用されるなど古くから日本人に親しまれていました。

蕪村は毎晩のように抱いて寝る竹夫人との関係を 古(いにしえ)の激しい恋物語にかさねて戯れています。

それにしても竹夫人なんて、 男目線の勝手な命名というしかありません。
能代の超インテリ女性俳人三輪翠羽(みわすいう)は こんなふうに突き放しています。。

○抱籠の しら/\しげな名なる哉(翠羽)



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