【蕪村菴俳諧帖27】謎の言い伝え
◆夏バテに麦こがし
根拠はよくわからないがそう信じられていること、
それを俗信と呼んだり迷信と言ったりします。
平成の今でも俗信、迷信はあるようですが、250年ほど昔、
蕪村の時代にはどんなことが信じられていたのでしょう。
○味噌汁をくはぬ娘の 夏書哉
夏の三か月間を寺院などにこもって修行するのを 夏安居(げあんご)といい、 夏安居の間に行う写経を夏書(げがき)と呼びます。
味噌汁を飲まない娘が夏書をしている、意味はそれだけのようですが、
当時味噌汁は妊婦によいと信じられていたとか。
娘は生涯独身を通すつもりだというのを
蕪村は「味噌汁をくはぬ」と表現したのです。
○水の粉や あるじかしこき後家の君
「水の粉」は「麦こがし」、「あるじ」は「もてなし」のこと。
水の粉は暑さで弱った胃腸の働きをよくするというので、
夏に好まれた食べ物だったそうです。
味噌汁の効果のほどはわかりませんが、こちらは身体によさそうです。
夏の客を栄養価の高い水の粉でもてなすとは 気の利いた後家さんではないかと、蕪村はいうのですが、 なぜ後家さんなのかが気になるところ。
◆親の死に目
食べてすぐ寝ると牛になる。
子どものころそう言われた人は多いんじゃないでしょうか。
では蕪村は…?
○喰ふて寝て牛にならばや 桃の花
牛になってでも、桃の花を眺めながら のんびりだらだらしていたいと。
現代人なら食休みの大切さを理解しているでしょう。
江戸時代にはまだ科学的に証明されてはいなかったはず。
しかし蕪村は健康のために牛になりたいというのではなくて、
せかせかしない生活への憧れをこの一句に込めたのです。
食事から離れましょう。
冬の句にこういうのがあります。
○足袋はいて寝る夜 物うき夢見哉
寒いのでつい足袋をはいて寝たんだが、 そのせいかいやな夢を見てしまったなぁと。
足袋をはいて寝ると親の死に目に会えない、 そんな諺(ことわざ)がありました。ということは、 それを知っていたからこそ「物うき夢」を見たのかも。
何をすると親の死に目に会えないのか、
時代や地方によって諺の内容は異なるようです。
それにしても、なぜ足袋なのでしょうね。