【蕪村菴俳諧帖40】無欲の宗匠◆目指すは芭蕉?
◆目指すは芭蕉?
今回は春秋庵白雄(しゅんじゅうあんしらお:1738-1791)です。
本名が加舎吉春(かやよしはる)なので
加舎白雄と表記されることもあります。
白雄はある高名な俳人の門下でしたが、
40歳の頃に芭蕉七部集《冬の日》を理想に掲げ独立。
江戸日本橋の春秋庵を拠点に関東一円に多くの門人を育て、
一大勢力を築いていきます。
では豊かな生活をしていたかと思うとさにあらず、
飯炊く薪にさえ不自由するありさまだったようで、
あるとき、見かねた数人の門人たちがお金を贈りました。
その後暮の煤払いを手伝いにきた門人たち、
棚からドスンと何かが落ちるのに気がつきます。
見れば先日贈ったお金。なぜか封が切られていません。
白雄が言うには、あの晩出かける用事があったが、
持っていくのはわずらわしく、置いておくのは盗人が心配だったので
その棚に隠しておいたのだ。
出かけた先で四五日遊んでいるうちに忘れてしまっていたが、
今日また贈ってもらったみたいでうれしいと。
並の人物ではなかったようです。
◆結果は蕪村?
白雄の発句は詩情豊かなものが多く、
たしかに蕉風を思わせるところも。
しかし離俗の作風はむしろ、蕪村に通じているかもしれません。
○関の戸や あふぎ破れしあきの風
投扇「名所和歌投扇」の役のひとつ「陸奥」には
能因の和歌「都をば霞とともに出でしかど
秋風ぞ吹く白川の関」が書かれていました。
白雄は実際の白河を前にして、ようやく到達したなという感慨を
投扇になぞらえ「扇破れし」と表現したのです。
○園暗き夜を 静かなる牡丹かな
なんとも素直な句ですが、闇に包まれた庭の一隅、そこだけ光を含んだかのように ほのかに明るい牡丹の花が目に浮かびます。
○傘さして吹かれに出でし 青田哉
五月雨など気にせず、 青田を吹き渡る風に吹かれたいと 傘をさして外に出たというのです。
○川狩や 鮎の腮(えら)さす雨の篠
川狩りする漁師に篠(しの)突く雨が降っているというのですが、
鮎の川狩りに用いる椻(せき)は、通常篠竹で作られています。
堰の篠と雨の篠。俳人らしい着眼点と言えるでしょうか。
○いち早く燃えてかひなし 榾の蔦
榾(ほた)は囲炉裏や竈(かまど)で燃やす薪のこと。
乾いた蔦(つた)は火がつきやすいので最初に竈にくべられ、
ほかの薪が燃え出すころには燃えつきています。
それを「甲斐がない」と見た白雄、
どんな思いを込めていたのでしょう。